Good afternoon

基本的に乃木坂について書いていくつもりです。自分の言葉に責任を持つ気が毛頭ない人たちが中の人をしており、それが複数名います。ご容赦ください。

沖縄県知事選について

沖縄県知事選が終わった。結果は玉城デニー氏の勝利で、自公が気合い入れまくって推薦していた佐喜真淳氏は敗北した。あれだけの選挙運動を展開したにもかかわらず、創価学会員の4人に1人が玉城に入れたという噂もあるようで(自分で調べたわけではないので真偽のほどは知らん)、自民党総裁選で石破茂が予想以上に多くの党員票を獲得し善戦したことを合わせると、安倍政権は空中戦に注力する一方で、その足元からほころびが見え隠れしているように思える。少なくとも、この2つの結果は、次の参院選で何かしらの影響を及ぼすだろう。

この選挙で2つ、気になったことがある。一つは佐喜真について、もう一つは玉城についてだ。そしてお気づきの通り、面倒だから敬称的なものは全て省くことにする。

1. 佐喜真について気になること--携帯料金は減らせる?

まず最初に気になったのは、佐喜真の公約だ。念のため言っておくと、僕は関東圏に在住しており、そのこともあって両者の政策パンフレットやチラシ等の物品は持っていない。よって、僕が主に参照するのはウェブサイトの情報となる。そして、これが佐喜真のウェブサイトだ。

atsushi-sakima.jp

まぁなんていうか、わりとよくある政治家のウェブサイトを、ちょっとよくした感じのつくりだ。多分、ケータイの方が見やすいと思う。

気になったのは政策だ。背景が赤でなかなかごついけれど、とりあえず色々なことを言っている。本当に色々なことを言っていて、たとえば「女性活躍」のところの「うない会議」とかは、一見リベラルの主張にも見えてしまう。ただし、やりたいことリストの羅列のような書き方でもあるので、ポイントがどこなのか、どういう理念に基づいてどういう優先順位をつけているのかが、全く見えてこない。加えて、具体的なこともほとんど書いていない(基地のところは、さすがにそこそこ書いてはいるけれど)。

そんななかで一際注目を浴びたのが、携帯料金4割削減を求めるという公約だ。「求める」のか「削減します」なのかが最後までよく分からなかったけれど、キャッチーな政策であることに違いはないし、実際に携帯料金は高い。格安SIMを使えばいいじゃないかという議論もあるみたいだけれど、それだと情報格差とかが問題になってくるので、一律的な取り組みに意味がないわけではない。ただこの公約で同時に注目されたのは、「それ、本当にできるの?」ということだった。

結論から言うと、できなくはない。多分。

琉球新報』が報じていたように、引き下げを「求める」ことはできる。ただし、事業者側がそれに従わなければならないというわけではないので、強制力を持たせるためには、そのようにする法律を作るしかない。とすると、そんな法律が作れるかどうかというのが焦点になる。ここで注目したいのは、もともと携帯料金の削減は、官房長官菅義偉が唱えていた政策だということだ。さらっと検索した限りでは、8月の段階で菅はこの問題に言及しており、その際、公取委との連携で何とかしようと考えていたらしい。「国民の財産である公共の電波を利用して」というフレーミングを用いており、全国一律での料金引き下げを目論んでいたことがうかがえる。そしてその菅は、沖縄県知事選では積極的に沖縄に入っていたのだ。

つまり、佐喜真は携帯料金引き下げを、決してできないわけではなかったのだ。ようは中央政府との連携関係を密にしつつ、菅の語る政策を地域・年代両単位で部分的に導入しようという、つまりは国策の試験的な導入所として沖縄を置くというかたちで、公約を果たすということだ。

ただしこの場合、当然ながら、中央政府との密な連携が前提となるため、では基地はどうなるのか、という問題が出てくる。もし基地反対の姿勢を出すのであれば、佐喜真には沖縄を試験的導入所として置く代わりに基地については妥協しないという交渉が求められることになる。ただ、そもそも支持層を保守勢力によっており、かつ中央地方関係で見ても、悲しいかな、交渉力を奪われてきたからこそ翁長全沖縄県知事が求められた面があるのであって、その意味で佐喜真は、基地問題か携帯問題かのどちらかを「捨てる」ことが、公約段階で迫られていた。

なお携帯料金については、「実質的削減」とか言って、携帯を使っている若者(世帯)向けに手当やバウチャーを給付するという手もあった。ただしどちらにせよ財源負担はどうなるのかという問題は残る。この点についての佐喜真からの解答を僕は知らないので、そこについては触れないことにする。

2. 玉城について気になること--イデオロギーよりアイデンティティ

さて、次は玉城について。玉城については「翁長前知事の意思を継ぐ」というかたちで、主に基地問題への姿勢がクローズアップされてきた面があるけれど、ここではあえて生活保障について見てみたい。

tamakidenny2018.com

ウェブサイトは典型的なペライチ仕様。これ、いつまで流行るのだろうか。まぁ選挙みたいな特設ページが求められるタイミングでは、シンプルなつくりでうってつけなのかもしれない。

佐喜真と対照的に、玉城は政策をかなり絞るかわりに、ポイントを見えやすくしている。これにかんしては、どちらが良い悪いというのではなく、おそらくは「どっちもやれ」という話なのだろう。その意味で、玉城の掲げる政策の総体が見えにくいのは、いささか残念でもある。

とはいえポイントが絞られている分、注目すべき箇所もわかる。気になるのは、玉城が公約の第一に「社会的投資戦略」を掲げていることだ。僕はステキな性格をしているので、テクニカルタームを入れるだけ入れて「人への投資は、無駄ではない、戦略なのです」みたいな、その言葉を明確に回収する説明がないのは、単にタームの無駄遣いなんじゃないのとか、決してツッコんだりはしない。もちろん、一部の層には社会的投資戦略は経済合理性に福祉を服従させかねないとか何とかで評判が悪いとか、そういうことも絶対に言わない。

が、社会的投資戦略それ自体は重要だ。論者としてよく知られるのはエスピン=アンデルセンだけど、文字通り、福祉を「社会的」な「投資」の「戦略」として捉えようということだ。福祉の充実と経済の成長は、しばしばトレード・オフの関係として語られていた。福祉を充実させすぎると頑張るインセンティブがなくなるみたいな話だ。しかし社会的投資戦略は、福祉の充実を成長の妨げとしてでなく、社会の活力と成長をもたらす「戦略」として捉えるところにポイントがある。

そう、ここで問題になっているのは、社会の活力を支える土台なのだ。だからこそ玉城の政策では、「新時代沖縄はみんなでつくりあげるもの」「『ウチナーンチュ』という一つのアイデンティティ」「沖縄にしかない価値」そして「誇りある歴史」を掲げる。そしてこれらは、生活保障から基地問題解決まで、一本の線で繋がっている。生活保障の充実は沖縄の人びとの活力を最大限に引き出す。そのことによって、徹頭徹尾、沖縄の人びとから始まる政策構想を提示する。翁長前県知事は、保革対立(イデオロギー)を超え、「オール沖縄」の流れのなかで、「本土」の押し付けに対抗的な沖縄アイデンティティを訴え、勝利し、最後までその姿勢を貫いた。沖縄という土台から始め、その沖縄という土台の活力を支えるという意味で、玉城の政策は、実は翁長の時からの一貫性を、その政策構想のなかで体現していた。

この意味で、玉城があくまで政党からの「推薦」でなく「支援」のかたちで戦う一方で、佐喜真が自公からの推薦をうけ、しかも「選挙の顔」としても強い小泉進次郎を(たしか)2度も、しかも菅義偉とセットで派遣したのは、対立構図として興味深い。あえて玉城のフレーミングに乗っかれば、まさに今回の県知事選は、「イデオロギー」に対抗する「アイデンティティ」の政治だったのだ。

3. おわりに

今回の県知事選では、両候補とも生活保障についてかなり踏み込んだ言説が見られたように思う(もちろん、これまでの候補がそれを言ってなかったわけではない、決して)。ただし、「基地問題を訴える〇〇か、生活保障を訴える△△か」という対立構図で理解しようというのは、端的に言って間違いだ。上でも示唆してみたように、これらの問題は相互に連関して一つのかたちを成している。そしてそれは県知事選である以上、中央政府との関係においても語られる。沖縄であれば、なおのこと。

最後に一つ言っておきたいのは、今後の生活保障のビジョンを語る上で外せないのは地域主導であり、その際求められるのが「地方分権」だということだ。この言葉はやけネオリベ的なノリに毒されている面があるけれど、地方分権というのは地方の権限を強めることによってより柔軟な個別具体的なニーズに応えられる体制を作っていこうよ、という話なのであって、間違っても中央政府の責任放棄という話ではない。

沖縄県知事選が示したのは、まさしく「地方分権」のひとつのかたちなのではないかと思う。その地方のアイデンティティを自覚しながらまとめあげ、その活力を生み出していく戦略は、まさに地域主導型生活保障のひとつの姿と言える。そして、そのアイデンティティのかたちは、基地問題をめぐる沖縄のこれまでの運動の積み上げのなかで生まれたものであることを決して忘れてはならない。

今後、どれだけ沖縄が独自の、柔軟かつ創造性にあふれる生活保障の戦略を練っていくかは、どれだけ沖縄が独自の権限をもって個別具体的なニーズに応えられるのかによっている。そしてその際、玉城が公約のなかで、ボトムアップ型民主主義の構想を提示していたことは重要だ。ニーズを表出し、それを政治へと組み上げていく回路こそは、まさしく民主主義の制度構想のキモの一つなのだから。

本土に生きる我々が受け止めるべきことは多く、あまりに重い。沖縄が出した一つの答えを、真正面から受け止めなくてはならない。